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2017 Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections
HIV感染の予防
PrEP使用者におけるSTIとSTI PEP

FTC:エムトリシタビン、MSM:男性間性交渉者、PBO:プラセボ、PEP:曝露後感染予防(薬)、PrEP:曝露前感染予防(薬)、STD:性感染症、STI:性感染症、TDF:テノホビルジソプロキシルフマル酸塩
Joel E. Gallant博士(MD, MPH):
IPERGAY試験は、 リスクの高いフランス人およびカナダ人、男性間性交渉者(MSM)を対象に、経口エムトリシタビン(FTC)/テノホビルジソプロキシルフマル酸塩(TDF)の event-driven投与とプラセボを比較したPrEPの無作為化、二重盲検試験であった[1]。(米国では、このような間欠的投与スケジュールは承認されていない)。オンデマンドFTC/TDFはHIV感染のリスクを86%減少させたが、STIの発生率は両群ともに高かった。ワシントン州シアトルのクリニックのデータでも、PrEP使用者220例において、クラミジアおよび淋病の発生率が高かった[2]。しかし、PrEPの使用によって実際にSTIのリスクが増加するかどうかは、議論の分かれる問題であり、答えは得られていない。
PrEP使用者でSTIの発生率が高いことを考慮し、最近の試験では、IPERGAY試験の非盲検継続投与期に参加した被験者(男性)を登録し、STI予防に対するPEPの有効性を評価した[3,4]。全体として、男性232例をオンデマンド ドキシサイクリンまたはSTI PEP非使用に無作為に割り付けた。PEP薬使用者はコンドーム非使用での性交渉後72時間以内に100 mg錠2錠を最大週6錠服用した。全例に対し、コンドーム提供、リスク低減カウンセリングおよび8週ごとのHIV/STI検査を実施した。
オンデマンド経口FTC/TDF PrEP使用MSMに対するオンデマンド ドキシサイクリンによるSTI PEP

AE:有害事象、FTC:エムトリシタビン、GI:消化管、MSM:男性間性交渉者、PEP:曝露後感染予防(薬)、PrEP:曝露前感染予防(薬)、STI:性感染症、TDF:テノホビルジソプロキシルフマル酸塩
Joel E. Gallant博士(MD, MPH):
追跡期間中央値は8.7ヵ月で、ある程度の効果が得られた[4]。全体として、新規のSTI例は73例で、そのうちオンデマンドでドキシサイクリンの投与を受けた患者は38%のみであった。 PEP使用により、すべてのSTI、クラミジア、梅毒の発生率は有意に減少したが、予想どおり、淋病のリスクは減少しなかった。理論上、臨床医は、このSTI管理アプローチを即座に採用してもいいくらいかもしれないが、このような戦略を実施する前に考慮すべき重要な注意点が多くある。
Charles B. Hicks博士(MD):
同感です。筆頭演者のJean-Michel Molina博士でさえ、即座にこれを標準治療とみなすべきではないと述べ、PrEP使用者における広範な採用を推奨しなかった。 淋病では、おそらくテトラサイクリンおよびドキシサイクリンに対する耐性が大きいため、淋病の感染率に影響がみられなかった。今後生じる最大の問題は、ドキシサイクリンをこのように使用することによって、性感染を起こす病原菌の間で耐性が獲得される可能性が高いということであろう。患者が服用を忘れる場合もあり、 病原菌が非常に少量の抗菌薬に曝露される可能性は高い。梅毒の場合、ペニシリンにアレルギーのある患者にはドキシサイクリンが不可欠な治療選択肢である。STI のためのPEPは短期的には有益であるかもしれないが、長期的に見ると、重要な薬剤の選択肢が失われてしまう可能性がある。このように、STI のPEPとしてのドキシサイクリンの使用は、たとえ淋病以外の細菌によるSTIの発症例数を減少させることに成功したように見えても、広く採用されるよう提唱する前に、さらに検討する必要がある。
Joel E. Gallant氏(MD, MPH):
同感です。すでに耐性が問題になっている淋病については、特に重要である。また、梅毒感染の可能性もあるのに、この不完全なレジメンでは部分的にしか治療できないという懸念もある。 また、STIから守られていると思い込み、スクリーニング検査を受ける頻度が減るかもしれない。淋病は予防できないため、これは特に問題になるであろう。もちろん、人々の微生物叢に対する抗菌薬頻回投与の影響にも留意することが重要である。1回の抗菌薬治療コースでさえ、腸内微生物叢に長期的影響を及ぼすことが明らかになってきている。
Charles B. Hicks氏(MD):
私にとって、欠点が利点を大幅に上回るが、本戦略の採用を阻止する試みは無駄に終わることを危惧している。述べられているように、これらの幾分ポジティブなデータは今や公表されており、この戦略に対する強い関心を感じる。
Joel E. Gallant氏(MD, MPH):
臨床医が、これは万能薬ではないことを認識することが重要である。実際、診療している患者の間で淋病の発症数が非常に多く、私もこのアプローチを使いたいと思う状況に遭遇していない。最も有病率の高いSTIの1つである淋病を除外するSTI予防戦略が、非常に有用であるとは思えない。
症例報告:PrEP遵守MSMにおける野生型HIV感染
Charles B. Hicks博士(MD):
PrEPの使用が拡大するにつれ、 PrEP使用者のHIV感染症例は必然的に生じるだろう。 これまで、これらの症例における感染の原因は、PrEPが完全に有効ではなかった耐性ウイルスによるものか、患者側の遵守不良によるものであった。しかし、最近の症例では、PrEPの遵守がきわめて良好であると思われる男性において既存耐性のない野生型HIVウイルスの感染が認められている[5]。この50歳のMSMは、アムステルダム曝露前感染予防プロジェクトの一環として、経口FTC/TDFを連日使用し、感染時まで良好なPrEP遵守を報告しており、これは、乾燥血液スポットのテノホビル二リン酸(TFV-DP)濃度によって検証された。
本症例では、PrEP開始後のコンドーム非使用の肛門性交パートナー数は1日平均2~5人で、性交中のドラッグ使用を認めた。また、直腸の淋菌感染症が2回、直腸のクラミジア感染が1回発現した。本症例は明らかに、HIVを含むと思われるさまざまな異なる病原菌に頻繁に曝露されていた。慎重に追跡検査を受け、PrEP開始後6ヵ月間で数回のHIV抗原および抗体検査で、常に結果は陰性であった。8ヵ月後に発熱および排尿障害が認められた。HIV抗体は陽性であったが、HIV p24抗原およびHIV-1 RNA/DNA検査は陰性であったため、当初は急性HIV感染症とは診断されなかった。この時点で、PrEPを中止し、3週間後にHIV-1 RNAが検出された。感染ウイルスに関する慎重な検査の結果、ARV薬剤耐性は認められなかった。その後、多剤併用ARTを開始し、ウイルスは1ヵ月以内に検出可能レベル未満に抑制された。
本症例のHIVの診断は、 予防レベルのTFV-DP濃度にもかかわらず野生型HIVの感染が報告された最初の症例であった。PrEPであれARTであれ、100%有効な治療法はないため、このようなHIV感染イベントは全く驚くべきものであるとはいえない。
PrEP遵守時の野生型HIV感染
Charles B. Hicks博士(MD):
注目すべき点として、この急性感染症の病状は完全に典型的なものではない。セロコンバージョン時に採取したバルク末梢血単核細胞中にHIV DNAは検出されず、3個のS状結腸生検検体中にHIV DNAまたはRNAは検出されなかった。この患者の性交渉の頻度を考慮すると、PrEP使用開始後8ヵ月間に複数のHIV曝露を受けた可能性が高い。淋病およびクラミジア感染が繰り返されており、粘膜バリアが弱くなったり、損傷を受けたことが一因となって伝染しやすくなったと考えることは理にかなっている。また、直腸粘膜の標的組織中のPrEPの分布は、乾燥血液スポットデータによって示唆されるほど良好ではなかった可能性がある。全体として、本症例は、定期的なモニタリングの重要性を実証し、PrEPの使用予定者に対し、治療によって絶対的な予防が可能であるわけではなく、依然としてコンドームの使用が奨励されることを認識させる材料となる。
Joel E. Gallant博士(MD, MPH):
このような症例が今になって初めて報告されているということ自体が、PrEPの全般的な有効性を裏付けている。この症例には普通とは異なる側面がいくつかあり、その意味に関して疑問が生じている。具体的に述べると、最初の抗体陽性の結果が偽陽性で、PrEPを中止していた3週間の間にHIVに感染したのだろうか。私はそうではないと思う。PrEP使用中にHIVに感染したと考える。これは、通常の臨床検査によるHIVの診断方法での結果が、 FTC/TDFの有無によって影響を受ける可能性を示唆している。臨床医は、このような非定型のセロコンバージョンパターンについて認識しておく必要がある。
Charles B. Hicks氏(MD):
はい。血清学的検査およびウイルス検出性の点で、ウイルス感染が進展したパターンは通常とは異なっていた。通常の感染プロセスに対し、ある種の調節因子が作用していたと思われ、HIVを診断するためのより積極的な手段として、きわめて低い閾値を推進することの必要性を示している。Gallant博士が述べたように、PrEPは一般的にはきわめて有効であるが、どんな治療にもいえるように失敗は付き物であり、PrEPがリスクを伴う行為に対し完全な自由を与えるものと捉えれば捉えるほど、HIV感染の可能性が高くなる。