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2017 Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections
現在利用可能なARTに関する新規データ
104/111試験:治療歴のない患者におけるTAF 対 TDF

AF:アラフェナミド、COBI:コビシスタット、eGFR:推算糸球体濾過量、EVG:エルビテグラビル、FTC:エムトリシタビン、TAF:テノホビルアラフェナミド、TDF:テノホビルジソプロキシルフマル酸塩
Joel E. Gallant博士(MD, MPH):
今日までに、治療歴のない患者および抑制療法からの切り替え患者を対象にしたテノホビルアラフェナミド(TAF)とTDFの比較試験が多数実施されている。 GS-104/111試験は、治療歴のない成人患者1,733例を対象にエルビテグラビル(EVG)/コビシスタット(COBI)/FTC/TAFとEVG/COBI/FTC/TDFを比較した並行群間、無作為化、二重盲検、実薬対照、第III相試験であった[6-8] 。48週目からの主要評価項目データは、以前に公表されている[6]。 本最終解析では、144週目までの安全性および有効性を検討している[7]。
144週目にE/C/F/TAFによる初回ARTがE/C/F/TDFによる初回ARTの有効性を上回る
Joel E. Gallant博士(MD, MPH):
以前、48週目および96週目に、EVG/COBI/FTC/TDFとの比較で EVG/COBI/FTC/TAFの非劣性が示された[6,8]。144週目に、初めて、EVG/COBI/FTC/TAFがEVG/COBI/FTC/TDFを上回った。これは、ウイルス学的失敗の差ではなく、データがない患者の割合(11% 対 16%)によるもので、これは、EVG/COBI/FTC/TAFの安全性の高さを反映していると思われる。各試験群における有効性は, ベースライン時のHIV-1 RNA、CD4+細胞数、遵守レベル、年齢、性別、人種または地域で層別化した部分集団間で同等であった。群間比較では、各部分集団ともTAFを含むレジメンの方が有効性が高い傾向がある、または有意に高かった。耐性獲得によるウイルス学的失敗が起こったが、その頻度はきわめて低く、両群とも1.4%と同等であった。
E/C/F/TAFによる初回ARTとE/C/F/TDFによる初回ARTの比較:144週目の安全性の結果

AE:有害事象、BMD:骨密度、C:コビシスタット、Cr:クレアチニン、E:エルビテグラビル、eGFR:推算糸球体濾過量、F:エムトリシタビン、HDL:高比重リポタンパク質、LDL:低比重リポタンパク質、TAF:テノホビルアラフェナミド、TC:総コレステロール、TDF:テノホビルジソプロキシルフマル酸塩
Joel E. Gallant博士(MD, MPH):
EVG/COBI/FTC/TDFでは、有害事象(AE)による中止例が有意に多く、脊椎および股関節のいずれの骨密度低下も大きかった。中止に至った腎イベントの総数は少なかったが、その差は有意であり(P < 0.001)。12件とも(近位尿細管障害、クレアチニン値の上昇、推算糸球体濾過量の低下、腎不全、腎症、タンパク尿または膀胱痙縮)はいずれもEVG/COBI/FTC/TDF群で発現した。これらのデータは、TDFよりもTAFの方が腎臓に対する安全性が高いことを支持している。 これらの試験は盲検試験であるため、TDF使用者がより新しいまたは優れた薬剤による治療を希望して、TDFを中止した可能性は除外される。
Charles B. Hicks博士(MD):
Gallant博士の言う通りかもしれない。私の経験では、膀胱痙縮はTDFに関連する大きな問題でないにもかかわらず、中止理由の一覧に含まれてきた。これら12件の腎イベントは、6件の骨関連イベントおよびAEによる中止に至ったその他のイベントと合わせても、TDF群の患者の3%を占めるにすぎず、これに対し、TDF群では144週目のウイルス学的データの欠測により「抑制されなかった」とされた患者はTDF群の16%であった。このように、両群間の差のほとんどは、薬剤の有効性または安全性によって説明されるものではないと思われる。TAFが、おそらく優れた薬剤であることは認めるが、この差が強調されすぎることを危惧する。留意すべき点として、TDFはまもなくジェネリックとなる可能性が高く、その後はTDFの使用に関する決定では、わずかではあるが実際にみられる薬物毒性の増大と、おそらく意味があるであろう費用差のバランスを考慮することになる。
ウイルス学的に抑制されている女性患者におけるEVG/COBI/FTC/TAFへの切り替え

ATV:アタザナビル、COBI:コビシスタット、EVG:エルテグラビル、FTC:エムトリシタビン、HDL:高比重リポタンパク質、RTV:リトナビル、TAF:テノホビルアラフェナミド、TC:総コレステロール、TDF:テノホビルジソプロキシルフマル酸塩
Charles B. Hicks博士(MD):
歴史的に見て、薬剤承認を支持するデータを得るために実施される臨床試験は、女性ではなく男性を主に登録してきた。このような不均衡に対処するため、WAVES試験は治療歴のない女性575例を対象に、EVG/COBI/FTC/TDFとアタザナビル(ATV)/リトナビル(RTV)+FTC/TDFを比較する国際、無作為化、二重盲検、第III相試験として実施された[9]。
ATV/RTV+FTC/TDFを容易に凌ぐことができると論じる者もいるが、本試験では妊娠の可能性がある多くの女性患者を対象としているため、適切な選択であった。試験登録時、ATVは妊娠中のHIV感染女性にとっては好ましいPIであった。
主要評価項目は「48週目のHIV-1 RNAが50コピー/mL未満」であった。この時点で、48週間のATV/RTV+FTC/TDFレジメン後に HIVウイルスが抑制されていた女性212例を現治療の継続またはEVG/COBI/FTC/TAFへの切り替えに再度、無作為に割り付けた[10]。
さらに48週間の治療後の抑制率は、INSTIベースのEVG/COBI/FTC/TAFレジメンへの切り替え群が94%、ATV/RTV継続群が87%であった。 この群間差から、EVG/COBI/FTC/TAFの同等の有効性が確立された。いずれの群でも治療中に発現した耐性はなく、ウイルス学的失敗はほとんどなかった。TAFベースのレジメンへの切り替え群は、TDFベースのレジメン群に比べて腰椎および大腿骨近位部の骨密度の平均増加率が高く、腎安全性マーカーが良好であったが、脂質増加量も大きかった。TC:HDL比に差はなかった。本試験から、EVGベースの併用療法が女性患者においてきわめて有効な戦略であることが明白になったが、本レジメンは妊娠中に推奨されるオプションではない。
Joel E. Gallant博士(MD, MPH):
これらの結果は、治療歴のない女性を対象にATV/RTV+FTC/TDFと比較しドルテグラビル(DTG)/アバカビル(ABC)/ラミブジン(3TC)の有効性および忍容性の高さが示された第IIIb相ARIA試験の結果と類似している[11]。これらの試験はいずれも女性患者対象の治療に特異的なデータを提供しているだけでなく、初回治療としてPIよりもINSTIの方が好ましいことを論証している。
米国におけるINSTI耐性の現状
Joel E. Gallant博士(MD, MPH):
臨床医は、INSTI耐性検査の適応を問うことが多い。 INSTIが失敗していれば、検査は妥当である。幸い、INSTI耐性ウイルスの伝播は依然として稀で、INSTI耐性の獲得率も低いままである。
CROI 2017で発表された3件の試験では、これらの問題を検討している。1つ目の試験では、CDCの全米HIVサーベイランスシステムにおいて、2014年までにHIVと診断された患者におけるINSTI耐性の獲得率はわずか0.4%であった[12]。治療開始前の耐性率または耐性ウイルスの感染率はさらに低く0.04%であった。
2つ目の試験では、UNC CFAR HIV臨床コホートで2007年以降にARTを開始した患者685例における2015年のINSTI耐性獲得率は1%であった[13]。
3つ目はモデル化試験で、ベースライン時(治療開始前)のINSTI耐性検査の有益性を評価している[14]。本試験では、INSTI耐性ウイルスの感染率をCDCデータよりわずかに高い0.1%と仮定した。検査1回当たりの費用を250ドルと見積もった場合、 ART開始前の検査は検査なしと比べてアウトカムは同等以下であり、費用は高かった。この検査が標準治療の一環として行われた場合、ベースライン時にINSTI耐性に関連する 突然変異または多型を有する患者は、INSTIベースのレジメンが有効であったとしても不必要にPIの投与を受けることになる。費用の観点からは、ルーチンとしてこの検査を実施することは明らかに費用対効果が低い。
Charles B. Hicks博士(MD):
ほぼすべての、いわゆる「伝播されるINSTI耐性関連の突然変異」が、多型の可能性がある二次的変化を表していることに留意することが、おそらく重要である。これらの変化が部位特異的な突然変異誘発を介して導入された場合は、DTG感受性に影響を及ぼさない。このようにきわめて低い耐性ウイルスの感染率でさえ、おそらく患者がDTGを開始する場合のリスクを誇張している。
症例報告:急性HIV感染症に対するDTG + FTC/TDFによる治療中に出現したINSTI耐性

DRV:ダルナビル、DTG:ドルテグラビル、FTC:エムトリシタビン、GT:遺伝子型、ICU:集中治療室、PMH:既往歴、RAM:耐性関連突然変異、RPV:リルピビリン、RTV:リトナビル、TDF:テノホビルジソプロキシルフマル酸塩
Charles B. Hicks博士(MD):
第一世代INSTIラルテグラビルまたはEVGの治療失敗はきわめて珍しいが、ウイルス学的失敗を示した患者の約半数では顕著なINSTI耐性も認められた[15]。一方、DTGで報告されている耐性獲得率はほぼ0である[16]。この2つ目の症例報告は、急性HIV感染中のINSTI耐性発現を取り上げており、これはDTG+FTC/TDF治療中の患者ではこれまで報告されたことがない[17] 。
45歳の男性はニューモシスチス・イロベチイ(Pneumocystis jirovecii )による肺炎で入院し、新たな急性HIV感染症の診断が下された。本症例はDTG+FTC/TDFによる治療を開始し、退院したが、低酸素症悪化のため集中治療室への再入院を要した。服薬遵守および入院中のARV投与の直接観察にもかかわらず、HIV-1 RNA量が上昇した。ダルナビル(DRV)/RTV を追加し、HIV-1 RNA量は減少した。肺炎は改善し、患者は退院した。びまん性紅皮症のため、DRV/RTVをリルピビリン(RPV)に切り替えたが、 HIV-1 RNAは抑制されたままであった。
本症例で最も興味深い知見は、インテグラーゼ遺伝子型の標準的な検査方法である、ポピュレーションシーケンシングでは検出されなかったであろうINSTI耐性突然変異の出現がディープシーケンシングによって特定されたという点である。耐性の重要な寄与因子であるQ148K突然変異は急速に進み、その保有率は約2週間で0.0015%~最大20.9%になった。 このため、本症例は、DTG療法を受けている間に耐性を獲得したと思われる。ここでの注意点は、インテグラーゼ突然変異のシーケンシングに用いる投与前のウイルスが得られなかった点である。ベースライン時に投与前の逆転写酵素突然変異(V118I, F214L)がみつかっていたが、INSTI耐性の評価は標準治療の一環として行われていないため、実施されなかった。そのため、初めてINSTI耐性が検出されたのは治療中にディープシーケンシングを行った時であった。本症例はINSTI、特にDTGではいかに耐性出現の頻度が低いかを表している。
Joel E. Gallant博士、 MD, MPH:
同感です。これは以前に論じたPrEPの失敗例に酷似している。その失敗例では、PrEP発売から数年もたって初めて症例が報告されたことから、PrEPがいかに効果的かが実証された[5]。治療中のDTG耐性獲得のおそらく最初の本症例がDTGの試験および承認から何年もたって初めて報告されたという事実は、本剤に対する耐性獲得の難しさを強調している。医学では100%というものはほとんどないが、この孤発症例によってパニックが生じるようなことがあってはいけない。後ほど、DTGが誤用され、耐性が出現した症例について論じる。このような誤用を回避することの方が、はるかに重要な教訓である。