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2017 Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections
治療に関連した合併症および併存疾患
D:A:D研究:ATV/RTVまたはDRV/RTVへの曝露と CVDリスク

ATV:アタザナビル、BL:ベースライン、BMI:体格指数、CKD:慢性腎臓病、CV:心血管、CVD:心血管疾患、DM:糖尿病、DRV:ダルナビル、IRR:発生率比、MI:心筋梗塞、MV:多変量、RTV:リトナビル
Joel E. Gallant博士(MD, MPH):
長年にわたり、D:A:Dコホートからの報告では、さまざまなARVレジメンに関連する合併症の評価について示されてきた。これまで、最新のPIであるDRVに関する情報は得られていなかった。なぜならば、十分な比較データを蓄積するのに時間がかかったためである。このD:A:Dコホートの前向き解析では、2009年の初めから35,711例の患者を追跡し、これらの患者の3.2%で心血管疾患(心筋梗塞[MI]、脳卒中、心臓突然死、または侵襲的な心血管手術が行われた心血管疾患を含む)が発症した[40]。多変量解析では、DRV/RTVへの累積曝露は心血管疾患のリスク上昇と関連していたが、ATV/RTVへの累積曝露と心血管疾患のリスク上昇との関連は認められなかった。このCVDリスク上昇との関連は、第一世代のPIに関する以前のデータとは異なり、脂質異常症を介したものではないと考えられ、実際にATV/RTVまたはDRV/RTVの投与による脂質の違いは生じていないので、これは意外なことではない。
これらのデータは懸念を提起するものであったが、本試験にはいくつかの限界がある。ATVは心保護作用を示す可能性があり、これはおそらくATVのビリルビンに対する作用を介したものであると考えられる。DRVとATVを比較する場合に、ATVによるこの心保護作用が表れているのか、それともDRVに真の心毒性があるのかを明らかにしていく必要がある。
Charles B. Hicks博士(MD):
この発表は、やや議論の余地があるものの大変興味深い内容であった。D:A:D研究のさまざまな解析で得られた過去のデータから、ARTに関連するリスクが実証されており、今回の新しい解析では、DRVの投与を受けている人にとって不安材料となる結果が示されている。しかし、この結果に一貫性があることを確かめるために、関連性についてさまざまな団体(例えば、North American AIDS Cohort Collaboration[NA-ACCORD]、VA、FDA)による検討が必要である。DRV/RTVへの5年間の曝露によりCVDリスクが59%上昇することは、ささいな問題とは言えないことから、このリスクについて把握しておく必要がある。ガイドラインについて議論するために管理機関の会議が開催されるときには、このCVDリスクが管理機関にインパクトを与えるかどうか、特にDRV/RTVレジメンが初回治療のレジメンとして推奨されるとの見解を維持している米国保健福祉省にインパクトを与えるかどうかについて注目したいと考えている[37]。
Joel E. Gallant氏(MD, MPH):
INSTIによる治療が可能な場合は、初回治療に用いるべきであるということを強調している点を除けば、これらのデータが大きなインパクトを与えるものだとは考えていない。一例を挙げると、PIを使用している患者のほとんどが、薬剤耐性の問題が原因でPIを使用しなくてはならない患者であり、PIを使用する必要のない患者はPIの使用をやめている。このようにPIを使用している患者は少ないことから、1種類以上のPIが治療選択肢に加わる余地はない。ACTG A5257の無作為化比較試験では、そのより優れた忍容性から、DRVがこの1種類のPIであることが明らかにされた[76]。
Charles B. Hicks氏(MD):
DRVの累積影響を示しているD:A:Dのデータによって、臨床医はしばらくの間、DRV投与を受けていた患者のレジメンを、特にこれらの患者にその他の心血管危険因子が認められる場合は、その他のレジメンに切り替えることを強く主張するようになる可能性があると思われる。
Joel E. Gallant氏(MD, MPH):
鋭い指摘である。これ以外に付け加えておく必要のある注意点は、本研究でDRV/RTVを1日2回投与するレジメンを受けていた患者数は、現時点で実際の臨床診療で本レジメンによる治療を受けている患者数よりも多いかもしれないということである。したがって、DRV/RTVを1日1回投与するレジメンについて検討した場合、関連する心血管疾患のリスクは有意ではない可能性がある。
NA-ACCORD:喫煙、高血圧、および総コレステロール高値はHIV感染者のMIリスクに寄与する
Joel E. Gallant博士(MD, MPH):
この最後の後ろ向きメタアナリシスでは、NA-ACCORDの被験者集団に含まれる7つの臨床コホートの患者29,515例のMIリスクについて検討した[77]。 HIV感染者において、是正可能な因子のうち、これを予防または管理することができれば、MIの発症率を抑制する可能性のある因子を特定した。例を挙げると、MIリスクは、禁煙により38%低下し、高血圧のコントロールにより41%低下し、総コレステロール値の低下により43%低下した。高コレステロール血症および高血圧のコントロールと禁煙を併せて実施するとMIリスクは大幅に低下し(低下率は86%)、この結果は、MIリスクが是正可能または調整可能な因子による影響をいかに受けているかを強く示唆するものである。別のD:A:D研究では、禁煙後わずか1年で、がん全体の発生率が低下した(ただし、禁煙から5年経過した後も発生率の上昇が認められた肺がんを除く)[78]。
Charles B. Hicks博士(MD):
確かに本研究は、HIV感染者においても、MIの発症が従来の危険因子(喫煙、トリグリセリド値上昇、および高血圧など)によって惹起されることを実証している。HIV感染者におけるMIの発症率は一般集団と比較して異常に高いと思われるが、本研究で検討したCD4+細胞数以外のHIVに関連するMIの危険因子(糖尿病、慢性腎臓病、およびHIV-1 RNA量など)による寄与リスクの著しい蓄積は認められなかった。実際に、これらのHIVに関連するMIの危険因子による影響は、従来のMIの危険因子による影響と比較すると微々たるものであった。臨床では、プライマリケア医が、喫煙、高血圧、および不十分な脂質管理はHIV患者のMIの引き金となることを把握しておく必要がある。
Joel E. Gallant氏(MD, MPH):
これはきわめて重要なポイントである。最近、行われたKaiser Permanenteの研究でも、HIV感染者とHIV非感染者との間で認められるMIリスクの差が年々小さくなっていることが示されており、これはおそらく抗HIV薬が改善されたことによるものであると考えられるが、是正可能なMIの危険因子について臨床医がより多くの注意を払うようになったこともその原因となっていると考えられる[79]。